えー……諸君。突然だが、重要なお知らせがあります。
 うん、落ち着いて聞いてほしい。特に真也ファンの皆様は警備員と係員の指示に従って行動してください。はい、そこ!テープラインの中に入らない!

 いや、いきなり何だよって話なんだが。マジで意味がわからないと思うが、『本気』と書いて『マジ』で聞いてくれ。

 誠に申し上げにくいのですが、本日を持ちまして……イケメンでクールでツンデレで親バカな真也はサービスの提供を終了しました。
 代わりと言ってはなんですが、今日からは『ベイビー真也』の配信を始めます。


「さっきから何ぶつぶつ言ってるんでちゅか、不気味でちゅね。捻り潰しまちゅよ」
「オ゛ェ゛ッ!!」


 はい、これがベイビー真也!こちらにご用意されているのがベイビー真也です!
 相変わらず身長高いし顔はイケメンで声はイケボだし艶々の黒髪からいい匂いがするし細マッチョで、俺の首を絞める手の力は強くて苦しいです!
 だけども!


「あんまり調子に乗るんじゃありまちぇんよ」
「戻ってきてくれ真也ぁ……っ!!」


 こんなの真也じゃねーよ!何で赤ちゃん言葉なの?!
 世の中にはな、例えイケメンでも許されないことが少しは存在していて、


「は? 俺はここにいまちゅよ」
「ぎゃーっ!! 気持ち悪いよぅ!! オ゛ェ゛エ゛ッ!!」


 そしてこれはアウトの部類なんだよ、わかるか真也?!


「気持ち悪いとは無礼でちゅね、虫けらの分際で」
「後半! 後半いいよ! そう、その調子! そのクールな喋り方のままで! もっと俺を罵倒してくれ! ヘイカモン!!」
「意味がわからないでちゅ」
「ちっがーう!!」


 お兄さん嫌になっちゃう!さすがにこれはただのすごくリアルな悪夢よね?!早く目が覚めないかしら!!


「うるさいでちゅ」


 ハッ……!そうか、わかったぞ!
 俺が普段から真也に迷惑かけたり、優ちゃん狙ったり優ちゃん可愛がったり真也の留守中にこっそりバカにしていたから、ついに精神に異常をきたしたのか……!

 真理にたどり着いた途端、涙と鼻水が一気に溢れ出す。


「し、真也ぁ……ごめん、ごめんなぁ……俺が悪かった……」
「何で泣いてるんでちゅか、ノミ虫」


 ああ……罵倒とイケメンっぷりは絶好調なのに……その他は絶不調だよ、この人。

 俺には真也を治せない、力不足でごめんよ優ちゃん……と心の中で呟いた時、奥の部屋から優ちゃんが現れる。そして、頭の両端についたピンクのリボンを揺らしながら、エンジェルは花が咲くように笑った。


「ぱぱ! ばつげーむ、おわりだよ!」
「もう5分経ったのか」


 やっと俺の首から手が離れ、真也の口調も元に戻る。唖然とする俺を見下し、真也は冷静に吐き捨てた。


「俺はお前みたいに頭がおかしくなったりしてねーよ。正常だ」
「……え? だってさっき、口調がベイビーで……」
「今日は優の誕生日だろうが。今日一日、優のお願いは内容に関わらず何でも聞くって決めてるんだよ」
「あっ!」
「で。さっきはただ単に、優とのジャンケンに負けた罰ゲームをしてただけだ」
「ぱぱね、ちょきでまけたんだよ!」


 今日、6月1日は優ちゃんの誕生日だ。
 つまり、一日王様ゲーム的なアレで……罰ゲームの内容が赤ちゃん言葉を5分間使用ってだけで……ああ、なるほど。お兄さんやっと安心したよ。


「優。クソ樹久も来やがったことだし、そろそろケーキ食うか」
「くそー! くうー!」
「いや、優ちゃん! クソは食べちゃいかんよ!!」


 真也が冷蔵庫から取り出しリビングへ持ってきたのは、恐らく手作りだと思われるそれはもうとても華やかで美味しそうなバースデーケーキ。

 イケメンなうえに料理も上手いってか! ハンッ! う、羨ましくなんか、ないもん……グスッ……。


「よし、」
「せーっの、」
「「お誕生日おめでとう」」
「ありがとう、ぱぱ! きっちゃん!」