いじめて追いつめて、困らせたくなった。
そんな顔をもっと近くで見たいと思っていたのに。


───ぎゅうっ。


……言葉の代わりに行動で、抱きしめる強さで想いを伝える、みたいな。

お前なりの伝え方に、どうしようもなく愛しさが溢れて、止まらなくなって……俺も上から包み込むように抱きしめてしまう。


「好き」


抱きしめる力を緩め、耳元でそう告げるとビクッと体が跳ね上がって、俺に込められる力が強くなる。


「いじめ過ぎた。ごめん」


と、あえて暗い声を落としてみると、

「違う!私が素直になれないから悪くて、あんたは悪くないから!」

と、ばっと顔を上げ、慌てた様子でこちらを見上げる。
やっぱり単純。押してダメなら引いてみろ作戦が通じるのは俺が知る限り、こいつしかいない。

自然にいつもの意地の悪い笑みを浮かべそうになったが……せっかくこいつが素直になりかけてるんだ。ここで場を乱すともったいない。気合いで止める。

顔を上げた時に、思っているよりも俺との距離が近かったようで目を丸くしたが、ここでようやく観念した様子。

ゆっくりと、お互いの視線が交わる。

覚悟を決めて目を潤ませながら、

「……っ、好き」

今度は勢いではなく、はっきりと静かに。
耳に届く声で想いを言葉にしてくれた。
恥ずかしそうにしつつ、嬉しそうにしつつ。

基本的には単純で思い通りになってくれる。
でもたまに予想外のことをして俺を驚かせてくる。

そんな彼女に。

可愛い、好き、愛おしい。

それらの言葉が無限にぐるぐると回る。


「……これでいいで──むっ」

「ちゅっ、ん」


2度目の唇へのキス。
どちらも彼女の言葉を遮るもの。

待てない。
言葉を最後まで聞けずにごめん。
……まぁ、どうせ。
口を開いたところで、いつものツンデレのツンの部分だからいいだろうけど。

1度目のキスも幸せだったが、きちんと言葉にして想いを確かめ合ったあとである2回目の方が清々しく、安心感と穏やかさがあった。

春の暖かな風と太陽の柔らかな光。
桜の絨毯と桜の雨。
そんな中、愛おしい彼女と想いを通じ合い、唇を重ねる。

既に十分幸せな気持ちだ。

それでも、これから先の2人の未来を考えると、期待感が大きく膨らむ。
彼女と過ごす日々の中で幸せを、もっともっと、と求めてしまう自分は欲深いやつだ。


大学生活……今度は、彼女として俺を楽しませてくれよ。

笑顔溢れる幸せな毎日を過ごそうか。



───卒業後もまた君と。



【END】