懐かしむように、優しい微笑みで頷いている。 お湯が沸いた。早すぎだ。 きっと私の帰りを待って準備してくれていたのね。 「年をとってなくてもわかるのは、お爺さんには大切な思い出がいくつもあるっていう事よ」 「この時間もいい思い出だよ」 「忘れないように、お茶を飲んで」 お爺さんが紅茶の缶を開けて、素敵な匂いが広がった。 「……」 私は忘れたい。 この優しい生活より前の事を、すべて。