「今、何て?」





一颯は汐里と共に取り調べを行っていた光生の口から話された言葉に耳を疑う。
信じられないことだった。
だが、光生は全てを話すと言った。
それが真実なのか偽りなのか、本人しか分からないことだが、一颯達が動揺するにはどちらでも十分だった。






「悪い、もう一度言ってくれるか?」







「僕の父は七つの大罪の傲慢です。傲慢は神室さん以外からの罪人からも恐れられていて、≪あの人≫と呼ばれます」






「それは分かった。その後の言葉だ」






一颯の心臓はうるさい程ざわついている。
光生と向き合って座り、質問をしている汐里からも動揺がひしひしと伝わってきた。
確信はなかったが、仮定の中でその可能性は浮上していた。
だが、それだけは絶対ないと思っていたが、これで絶対ないということが絶対ないと立証される。






「七つの大罪の傲慢は首相の久宝公武、僕が血が繋がっているのも嫌悪する程傲慢な父です」






カルト組織から犯罪組織へと変貌を遂げた七つの大罪。
その名は日本のみならず、カルトや犯罪に興味を持つ世界の人々にも名を知らしめている。
そんな組織の一人、ましては罪人として罪の名を貰った幹部のような立場に、日本の首相がいた。
そんなことが世の中に広まったら――。






一颯ははっとした。
久宝が七つの大罪の傲慢ならば、他の政治家達の中にも七つの大罪の信者がいる可能性がある。
一番疑われるのは日本のNo.2と呼ばれる立場にいる一颯の父、久寿だ。
だが、一颯は父の性格をよく知っている。
父は頑固で実直、不正や犯罪を嫌う人だ、決して七つの大罪なんかの信者になるはずがない。






「久宝公武の他にも七つの大罪に関係する政治家は?」






「何人かいますが、浅川さんが心配するようなことはありません。その政治家の中に東雲官房長官はいませんから」






光生は一颯の問いから聞きたいことの意図を読み取り、そう答えた。
一颯は彼と話していて、本当に賢い少年だと思った。
問いかけには的確に答え、更にはこちらが欲しい情報を+αで答えている。
母を早くに亡くさず、父が久宝でなければ将来が約束された賢い人に育っていただろう。






だが、世の中は残酷だ。
母と久宝が出会わなかったら、彼は生まれていなかった。
父が久宝でなければ、こんなにも賢い少年にはならなかったかもしれない。
久宝が七つの大罪の傲慢でなければ、彼はこんな生き方をせずに済んだかもしれない。
それ以前に、久宝の元に生まれたのが不幸なのかもしれない。






いや、もしかしたら、その不幸が綾部光生という少年を存在させ、築き上げていたことが彼にとっては一番の不幸なのかもしれない――。