「な、んで……」





「君は暗闇の中で生きるような子じゃない……。光の中で生きるの……」





未希の優しい声に、光生の目に涙が浮かぶ。
光の中で生きる。
それは光生にとって、名前の由来でもあり、決して叶わないことだと思っていた。
死んだ光生の母は病死するまで、光生の父親が誰なのか言わなかった。
単に父親のことを話したくなかっただけだったのかもしれない。





だが、母が死んで、実父と名乗る男が光生の前に現れて分かった。
母は話したくなかったのではなく、言えなかったのだ、と。
言えるわけがなかった。
光生が有名な政治家との間に生まれた庶子ということを。
家庭と社会的に地位のある実父にとってはスキャンダルでしかなく、母は隠れるようにして光生を産んだのだ。







『光の中を自由に生きてね、光生』





母が光生によく言っていた言葉だ。
今思えば、それは光生の行く先を分かっていたかのような言い方だ。
母は分かっていたのかもしれない。
実父の本当の正体を。
知っていて、隠れるようにして光生を産んだのかもしれない。
大切な我が子を悪魔の手から守るために――。






「僕は光の中で生きて良い人間じゃない……。僕は闇の中で生きる方が合ってるんだ……」





「なら、何度でも光の方へ導くよ。君はまだ子供なんだからもっと周りを頼って良いんだよ」






光生は母が死んでから誰も頼れなかった。
頼り方を知らなかったと言っても良いかもしれない。
だからなのか、未希の言葉は光生の胸にストンと落ちてきた。
まるで、かけた何かがぴったりはまったかのように、すんなりと。






「僕は――」






何かを言いかけた光生の言葉を遮るように、防火シャッターが上がり、電気もついて店内が明るくなる。
「警察だ!」と叫ぶ声が防火シャッターの向こうから聞こえ、店内には安堵の空気が流れた。





「未希!」





防火シャッターが開ききる前に未希の兄、一颯が店内に駆け込んできた。
その顔には心配と安堵が入り乱れたような表情が浮かんでいた。
一颯は未希の姿を見つけるなり、駆け寄ってくる。





「お兄ちゃん……」





「お前、頭から血が……。殴られたのか?」





一颯は未希の額から流れる血を見て、顔をしかめる。
それと同時に、妹と妹が庇うようにしている少年の姿、そして、血のついた花瓶を持った客の姿を認識する。
そして、一颯はすぐに状況を理解した。






「お前か、妹を殴ったのは?」






一颯に睨まれた花瓶を持った客は「ひっ」と情けない声を出した。
だが、客は罪を逃れようと言い訳を始めた。