婚約者は不器用で優しい王子様




しばらく歩けば父の部屋のドアにノックをする。

何も言わないのが入室を許可された合図だ。

トントン

こちらも入る合図としてドアを再びノックする。

「失礼します」

入った途端、突然熱い液体が首から胸あたりにかかる。

これはさっき淹れたコーヒーだろう。



「おい!コーヒがいつもより苦いぞ!どういうことだ!!」



コーヒをカップごと投げつけたから中身はわたしにかかり、カップは私の目の前で大きな音をたてて割れた。

これは確実に私にかけてきている。

八つ当たりもいいとこだ。

念のため制服の上にエプロンを着ておいてよかった。襟の部分が少し汚れてしまったがまぁ大丈夫だろう。


「申し訳ありません」


「申し訳ありません。許してください」


私には反抗するすべなどない。

口答えもしなければ、言い返したりもしない。


必死に土下座をして謝ることしかわたしにはできない。


「もういい!!!出てけ!」


気が済んだのか、用なしの私を今度は邪魔者扱いか。


父親は手元にあった花瓶をもって今にもコーヒーカップみたいに投げそうだ。

早く部屋を出ようとドアノブに手をかける。

かけたところで背後で大きな音が鳴った。



「何をしている!?早く片付けんか!」

「申し訳ありません」