「それからは本当に楽しい毎日だったよ。真央に勉強を教えたり、真央が作ったクッキーを食べさせてもらったり」


江藤君は目を細めて言葉をつむぐ。


妹への特別な思いを、変なものだと思わず素直に受け取った江藤君。


血のつながりがないから恋愛も結婚もできるのだと調べて、安心したときのことまで話してくれた。


だけどそれは他の人には話せない感情だったようだ。


友達に話せば変だと思われるかもしれない。


両親に話せば心配をかけてしまうかもしれない。


どっちにしても、下手をすれば真央ちゃんと引き離されてしまうことだった。


だから江藤君は今までずっと、自分の気持ちを隠して生きてきたようだ。


江藤君のけなげさにまた胸がギュッと苦しくなった。


「真央ちゃんに、自分の気持ちを伝えたかった?」


そう聞くと、江藤君はハッとしたように顔をあげ、それから左右に首を振った。


「……いや。病気でつらい思いをしていた真央を更に悩ませることなんてできなかった」


江藤君の言葉に嘘はないように感じられた。


きっと、本心からなのだろう。


でも……翌日の2月8日、月曜日。


江藤君はホームルームの時間になっても登校してこなかった。


そして、神妙な面持ちの先生が教室に入ってきて、江藤君が死んだことを伝えたのだった。