「欲しいんじゃなかったの?」


なんで欲しいってわかったの?


と、反射的に質問返しをしそうになるが、とある事実に気づき、はっと我に返って一度、心を落ち着かせる。


この人……もしかして隣のクラスの王子様?


もちろん、王子様というのは比喩であり、留学生だとか生まれがそうだとか、そんなことはない。


クラスの女子が騒いでいたのを薄ぼんやりとしか覚えていないが。


親しみのあるイケメンは慎くんで、高嶺の花のイケメンは今、目の前にいる人……だった気がする。


一年生の女子の人気は慎くんと王子様で二分化されているそうな。


話の中で名前も出ていたし、女子がよく話題にするけれど、生憎興味がなかったため忘れてしまった。


これからも関わることはないだろうし、さほど重要ではない。


一度だけ、女子達が群がって……じゃなくて、女子達とお話しているところを見かけたことがある。


ひっきりなしに女子達に囲まれて話しかけられる姿はとても不憫で同情の念を抱いたのだが……本人は至って普通に、そつなく相手をしていたから苦ではないのだと思う。


多くの女子に話しかけられるのだから、『高嶺の花というほどではないのでは?』とは思ったが、慎くんのフレンドリーさを考えると、『ひたすらに受け身な王子様の対応は確かに淡白で近づきにくいかもしれない』と納得した。