毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす





慎くんとカップルという関係を解消してから数日後の日曜日。


明日から始まる定期考査のために今日も勉強しようと行きつけの喫茶店を訪れると、


「あれ、結城さんだ。偶然だね」


通された席の隣で、優雅に紅茶の入ったティーカップを掲げる王子様に遭遇してしまった。

こんな偶然あってたまるかと疑ったものの、彼の嬉しそうな顔を見るにこれは本当に偶然の出来事らしい。

キャンプファイヤーのときに自分のすぐ側から執念のようなものを感じたから、警戒し、わかりやすく避けていたのだが。

その努力は意味を成さなかったようだ。


「水上くん、久しぶりだね〜。じゃあ、さようなら!」


とりあえず挨拶だけは返してから、違う店に行こうと踵を返す。

ここは個室もあって万が一同じ学校の人が来ても勉強する姿を見られることはない、非常に私にとって過ごしやすい場所なのだけど。


水上くんだけは、ダメだ。
今一番会っちゃダメな人だ。

早くこの場から逃げないと……


「あ、かれんちゃんですか?」


前方からかかる懐かしい声に、踏み出そうとした一歩が元の位置に戻った。

なんと間の悪いことだ。


「……マスター」

「超久々に来たと思ったら……帰っちゃうんですね」

「そう、だね。久しぶり……だね」

「席に着くことなく帰っちゃう……僕の腕が落ちたからですか?!」

「や、やだな〜飲むに決まってるでしょ!落ち込まないで!マスターの入れる珈琲は格別だから楽しみだな〜」


しょんぼり、と。耳があれば垂れていたと確信出来るほどにあからさまに落ち込むマスター。

昔からお世話になっている人に本気で落ち込まれると、留まらずにはいられない。

私にだって一応人の心はあるのだ。


すると、そんな私の様子を興味深げに見つめる瞳が一対。