「それから旦那様はお心を病み、魂が抜けたようになってしまわれました。妃芽子様はひとりっ子でいらしたので、それはそれは可愛がってらっしゃいましたから。」


お母さんもひとりっ子だったんだ。


「そうして時は過ぎ、いつの間にかあれから20年程が経ちました。
時が経つのは誠に早いことでございますね。」


これで全てです、そう言って佐和さんは私を見る。



「お母さんが駆け落ち…。」


そんなの初めて聞いた。

お母さんがお嬢様だったことだって、生まれてこの方一度も聞いたことがなかったんだから。