「あ、あの女性は」


学校に行くとき駅のホームで、ある女性を見かけた。


そして、帰るときも彼女は同じ場所に座っていた。


なぜ朝の混雑した構内で、その女性を覚えていたかって?


理由は簡単。


だって、、、


その女性、大人なのに人形みたいなものを抱いていて明らかに目立ってたから。


駅のベンチに一日中、人形を抱いて座ってるなんてどう考えても普通じゃない。


わたしはその姿を遠目に見ながら改札を出た。



翌日、わたしは例の場所に目を向けた。


当たり前のように女性がまたベンチに座っている。


女性の視線と目が合う。


そして、わたしに向かって手招きしてきた。


ってわたしに? 


自分を指差すと女性は小さく頷いた。


手招きは止まらない。


見た感じは普通。


ただ人形を持っている姿がみんなを遠ざけているだけ。


周りはたくさんの人だし駅員さんだっている。


きっと近づいても大丈夫。


わたしは恐る恐る女性のところに向かった。


「おはよう、あなた昨日も見かけたわね」


イメージと違った穏やかな声色。


まるで知っている人に話すような感じ。


「あ、お、おはようございます」


わたしの声は明らかに上ずってる。


「ねえ、少しお話しない?」


わたしは、ちらっと女性の膝下に目をやる。


やっぱり本物の子供ではない。


子供の偽物、間違いなく人形。しかもかなりリアル。


「あの、わたし学校あるんで。次の電車に乗らないとダメなんです」


すると、


「そうだわね、なら学校帰りなら大丈夫? それまで待ってるわ」


笑顔で言って、わたしが電車に乗る姿を手を振りながら見送っていた。


それは不思議な感覚だった。

嬉しさ? 不安? 安堵? 恐怖? 様々な感情が混じっていた。


学校に着いても、彼女のことをずっと考えていた。


誰かに話してみようかな、と思ってすぐにやめた。


作り話みたいだし、わたしにはそんなプライベートを話せる友達っていない。


つか、むしろぼっちに近い。


そう考えたら、あの女性ってわたしに似てるなって思えてきた。


周りは気づかないふりして声をかけず通り過ぎていく。


そんな毎日の繰り返し。


将来のわたしの姿だったりして……


などと考えているうちに、ちょっと笑えてきた。


いつの間にか、わたしの頭から彼女に対する、


「不安や恐怖」と言ったマイナスな感情は消えていた。