「……なに?」
椎名は机だけではなく、俺のことまで叩きそうだったから仕方なく返事をする。
軽く椎名を睨んでみるけれど、椎名は俺の冷たい視線を感じていないようだ。
「ねえっ! この動画に映っているの、瀬川くんだよね!?」
そう言って椎名は俺に携帯を見せてくる。
その携帯の画面を見た瞬間。
俺はその手を掴んで、教室を飛び出した。
「もーっ。急に引っ張らないでよー」
携帯を落としちゃう、とか言っているけど、そんなのはどうでもいい。
むしろ携帯落として、その動画のデータを飛ばしてくれ。
思わず廊下で座り込んだ俺。
そんな俺と目線を合わせるように椎名もしゃがむ。
「ねぇねぇ。ストリートピアノ、やっているんで、」
「やってない」
「でも、この動画に映っているの、」
「映っていない」
椎名の言葉を端から否定していく俺。
否定していて思った。
これって、否定じゃなくて肯定しているようなもんだろ。
俺の反応に口角を上げる椎名。
それは微笑みなんかじゃない。
マドンナが悪魔に変わった瞬間だ。
「瀬川くんってさ。陰キャのフリして、実は陽キャ?」
「……どちらでもない」
陰キャとか陽キャとか、俺にとってはどうでもいい。
どうでもいいから、今すぐその動画を消してくれ。
俺が黒いコートを羽織っているその姿を。
俺が都庁で鍵盤を叩いているその演奏を。
俺が群集に囲まれているその動画を。
「今すぐ消してくれ……」
俺は土下座する勢いで頼んだのに。
椎名は机だけではなく、俺のことまで叩きそうだったから仕方なく返事をする。
軽く椎名を睨んでみるけれど、椎名は俺の冷たい視線を感じていないようだ。
「ねえっ! この動画に映っているの、瀬川くんだよね!?」
そう言って椎名は俺に携帯を見せてくる。
その携帯の画面を見た瞬間。
俺はその手を掴んで、教室を飛び出した。
「もーっ。急に引っ張らないでよー」
携帯を落としちゃう、とか言っているけど、そんなのはどうでもいい。
むしろ携帯落として、その動画のデータを飛ばしてくれ。
思わず廊下で座り込んだ俺。
そんな俺と目線を合わせるように椎名もしゃがむ。
「ねぇねぇ。ストリートピアノ、やっているんで、」
「やってない」
「でも、この動画に映っているの、」
「映っていない」
椎名の言葉を端から否定していく俺。
否定していて思った。
これって、否定じゃなくて肯定しているようなもんだろ。
俺の反応に口角を上げる椎名。
それは微笑みなんかじゃない。
マドンナが悪魔に変わった瞬間だ。
「瀬川くんってさ。陰キャのフリして、実は陽キャ?」
「……どちらでもない」
陰キャとか陽キャとか、俺にとってはどうでもいい。
どうでもいいから、今すぐその動画を消してくれ。
俺が黒いコートを羽織っているその姿を。
俺が都庁で鍵盤を叩いているその演奏を。
俺が群集に囲まれているその動画を。
「今すぐ消してくれ……」
俺は土下座する勢いで頼んだのに。



