マリアちゃんと鬼ごっこ



「村瀬くんはとっても責任感が強いのね。こんな状況なのに他の人に話せば混乱させると思って黙っていたんでしょう?」

「……はい。鬼ごっこが終わるまで凛太郎や三花にも言うつもりはありません」

「教え子がこんなに頑張ってるのに私は無力ね。私プライベートでもそうなのよ。仕事人間で家事も下手くそだなら娘には呆れられちゃってるの」

「結婚してたんですか?」

「あら、独身だと思ってた? でもね、結婚は失敗してるのよ。みんなには内緒にしてね」

先生もこんなことに巻き込まれてツラいだろう。でも俺は先生がこの場にいてくれてよかったと思ってる。

まだ二日じゃない。あと二日だ。

希望なんて簡単には持てないけど、カウントダウンは見えている。

「じっとしてても落ち着かないから散歩でもしない?」

「建物の中をですか?」

「そうよ。歩いていたらなにか糸口が見つかるかもしれないでしょ?」

「はは、そうですね。じゃあ、歩きましょうか」

そのほうが時間も早く過ぎてくれそうだ。

「まずは地下からね」と、先生が率先して歩き出す。俺はその後に続く形で階段を下りた。一歩、また一歩と進む中で、ふと〝あること〟に気づく。

「先生。ひとつ聞いていいですか?」

「どうしたの?」  

「なんでエレベーターじゃなくて階段を使ったんですか?」

「そのほうが早いでしょ?」

「でも俺たちがいた場所はエレベーターの前でした。普通はエレベーターを使いませんか?」 

「村瀬くん、なにが言いたいの?」

先生が足を止めて笑顔で振り向いた。
 

「地下は階段からじゃなきゃ行けないことを先生は知っていたんじゃないですか?」

言いながら、ゴクリと喉を鳴らした。