「そういえばよく野球ボールなんて持ってたな。あのスプレーも病室にはなかっただろ?」
「ああ、これは冷却スプレーだよ。野球ボールも最初に寄ったスポーツ用品店で借りてたんだ。あ、盗んだつもりはないからな! 使わなかったら後でちゃんと戻しておくつもりだったし……」
凛太郎が言いづらそうに口を濁らせていた。きっと護身用としてポケットに忍ばせていたんだろう。
「いや、おかげで助かったよ。ありがとな」
さっきの一戦で少しだけわかったことがある。
マリアはボールが当たったり、ハサミが突き刺さっても平気な顔をしてた。でも冷却スプレーのように予想外の攻撃には動揺する。それから洋服を切られることもすごく嫌がっていた。
〝じゃあ、きみは自分のことを普通だって思ってるの?〟
〝ママにね、本当のことは最後まで言うなって言われてるんだ〟
あれは一体どういう意味だったんだろうか。
本当のことって……なんだ?
マリアとのやり取りを思い返していると、暗がりの道から足音が聞こえてきた。とっさに身構えたけど、スマホはバイブしてない。
そして不思議なことに青色の点滅も画面では確認できなかった。
……クラスメイトでもない?
ということは必然的に鬼ごっこに参加してない人物ということになる。
もしかして町の人が残っていたとか?
色んな可能性を組み立てながら、相手が近づいて来るのを待った。



