マリアちゃんと鬼ごっこ



牧田の精神年齢は低くてわかりやすいけど、男子のリーダーである瀧川はけっこう賢い。

成績うんぬんのことじゃなくて、今みんながどういう行動を取ろうとしているのか腕を組んで様子を伺っている。

女子が牧田に逆らえないように、男子も瀧川にはなにも言えない。そうやって上下関係がわかりやすくあるB組は、やっぱりハズレだと思う。


「……ねえ、アレ、見て」

ふと、三花が外を指さした。

視線を向けると正門から誰かがゆっくりと歩いてきていた。クラスメイトたちも確認するように窓の側に集まっている。

みんな言葉を失った。

その代わりに聞こえてくるのは、自分の内側で騒いでいる心臓の音だけ。

歩いてきたのは、ひとりの女の子だった。

身長はおよそ100センチ。未就学児くらいの子の髪の毛はウェーブのかかった栗色をしていて、曇り空の下でも目立っている。

着てる洋服は生成(きなり)のレースがたくさんあしらってあるクラシカルなピンクベージュのワンピース。

フリルネックのブラウスと、胸元にはワイン色のリボン。愛らしい見た目とは真逆に、くるみボタンの袖から見える右手に銀色のノコギリを持っていた。


ギイ、ギイギイ……。

背丈と変わらない長さのノコギリを引きずりながら歩いている。

その刃がコンクリートに擦れるたびに耳を覆いたくなるような金属音が鳴っていた。