訳アリ令嬢ですが、憧れの公爵様に溺愛されています!

 アース様とお話していたその時、あたりが騒がしくなり、妖精さん達が逃げるようにアース様の元へ飛んできました。
 そして、必死に何かを叫ぶ声が聞こえます。

「ローズ!!ローズ!!」
「!!」

 聞き間違うことのない声。しかしここは妖精界。人間が簡単に来れる場所ではありません。私の願望でしょうか?

『騒がしいやつがきおった。人間のくせに我の地に足を踏み込むとは』

 人間!?では、やはり、この声は──。

「ローズ!!」
「っ!ウィル……!!」

 濃紺の髪、ワインレッドの瞳、パーティの為に着飾った王宮魔術師の正装姿。私の愛しい人がそこに居ました。
 私を発見すると一目散にこちらへ駆けてきます。

『そなたの迎えか。突き返すか?』

 首を横に振ります。追ってきてくれたことに、喜んでしまう私は、現金でしょうか。
 しかし、アース様は私を引き寄せました。何か不思議な力が作用しているのか、私は身体を動かすことも声を出すことも出来なくなりました。

 駆けつけたウィルと対峙した私たち。ウィルは見たこともない怒りの眼差しでアース様を睨みつけています。

「ローズを返せ」
『この娘は我が貰う』
「だめだ!ローズは私が妻にする!」
『娘はずっと泣いていたと私の家臣が言っているが?』

 ウィルは私が泣いていたことを知り、驚いた様子でした。そして、懇願するような眼差しで私を見つめて言いました。

「……ローズのことは、必ず幸せにする。私が、ローズでなければだめなのだ」

 どうして、私でなければならないのでしょう。王女様のもとへ行きたいのではないのですか。

 ウィルは弱々しい声で、「頼む、妖精王」と頭を下げました。
 頭上で「ふっ」と笑う声がしたと思うと、身体が自由に動くようになりました。目で行けと言われた気がして、ゆっくりとウィルのもとへ歩き出します。

「……ローズ……!」

 ウィルは私の無事を確かめると、安堵したようでした。心配してくれたことに、私の心は浮上していきます。

「アース様、お気遣いありがとうございます。私、帰ります」
『また遊びに来るとよい』

 そう言われた直後、また私とウィルを眩い光が包みました。