訳アリ令嬢ですが、憧れの公爵様に溺愛されています!

 ウィルはその日の夜に帰宅しました。執務室で仕事を片付け、明け方に王宮に戻る予定だったようです。ウィルが帰宅したら教えてくれるようロバートさんに頼んでいたので、無事会うことができました。

「ウィル……」

 私から初めて続き扉を開きます。久しぶりに会ったウィルは、随分痩せて疲れた顔をしていました。王宮の仕事と公爵としての執務、そして王女様の対応と多忙なのでしょう。
 ウィルは突然現れた私に驚いた顔をしましたが、すぐに目をそらしてしまいました。その小さな仕草に傷つきながらも、努めて普通に話しかけます。

「お忙しいところすみません。あの、婚約発表パーティのことで、少しお話がしたくて」
「君に任せる。判断がつかないことは、父上と母上と相談して決めてくれ」
「……分かりました」

 パーティは中止だ、と言われなかったことに少しほっとしていまいました。だけど、このまま進めてしまって本当に良いのでしょうか。

「ウィルは……王女様のことを、どう思っているのですか?」

 私が王女様のことを知っていることに、ウィルは動揺しているようでした。少し思案して、今度は私の方を見てくれました。

「……尊敬はしている」
「そう……ですか……」

 では、私のことはどう思っているのですか。愛情ではなく、同情で結婚しようとしているのですか。それともキズモノにした責任を感じて結婚するのですか。視線を合わせてくれないのは、尊敬している王女様が好きになったからですか。
 聞きたいことは山ほどあるのに、声が出ません。

「ローズ、その……」
「あの!遅い時間にすみませんでした!少しでも眠ってくださいね。おやすみなさい!」

 言いにくそうにウィルが口を開いたので、慌てて遮り、自分の部屋へと逃げ込みました。追いかけてきたらどうしようと耳をすませましたが、足音はしません。逃げたのは私なのに、追いかけてくれないことにも、少しだけまた傷ついていました。
 あのままウィルの話を聞いていたら、何を言われたのだろうと考えると、その夜はなかなか寝付けませんでした。