ウィルが出発して5日目。
 公爵家から王宮に伺いを立てると、アレク王子とレオンお兄様、ウィルの三人で隣国へ出発し、帰還は遅れると連絡があったとのこと。
 何かトラブルが起きているかもしれないけれど、転移できない隊が行っても行き違いになる可能性もあること、間違いなく王子本人の直筆で心配せぬよう文に書いてあったそうで、もう少し様子を見るとのことでした。

 心配でたまらないけれど、花魔法しか使えない私は、転移で駆けつけることも出来ないし、何かあってもお守りできない。待つしかない自分が情けなく、ますます自己嫌悪に陥っていました。

『ローズ!遊びにきたよ!』

 デイジーが遊びにくるのは久しぶりです!この数か月で何度かは来てくれていましたが、私も忙しくなかなかゆっくりお話しできていませんでした。沈んでいた気持ちがゆっくり上昇します。

「デイジー!あぁ会いたかったのよ。元気?」
『うん!土の妖精王様が伯爵邸と公爵邸をつなぐドアを作ってくれたの!だから前のおうちのお友達ともすぐに会えるし、皆で公爵邸にきて遊んだりしてるんだよ』
「まぁ!そんなことができるの?妖精王様はすごい方なのね。」

 自分たちの王を褒められると嬉しいのか、デイジーは笑顔でくるくると回りました。

『ローズも前のおうちに帰りたかったらすぐに帰れるよ!』
「人間も通れるの?」
『わからない!王様に聞いてみるね!』
「そうね勝手にドアを使ったら悪いもの。一度ご挨拶してみたいわ。」

 人間が妖精王に会うなんて難しいでしょうけれど。でもデイジーが大切にされているようでよかったです。デイジーはふわっと私のそばに飛んでくると、顔色をのぞき込みました。

『ローズ最近忙しそう。』
「うーん、そうね。パーティの準備で大忙しですね。」
『大丈夫?ウィルのせい?ウィルこの家にローズを呼んだのにほったらかし。』

 いつも姿を現すわけではない妖精ですが、デイジーは普段から私のことをよく見てくれているようです。ウィルが家にいるかどうかもご存じなのですね。

「それは仕方がないのよ。大丈夫です。それよりも……」 
『それよりも?』

 それよりも。私はここにいていいのかしら。ウィルは、大丈夫かしら。無事に帰ってくるかしら。不安と寂しさがこみ上げて、気づけば私の頬が濡れていました。

『ローズとっても悲しい顔してる。泣き止んで?これあげるよ!』

 デイジーが綺麗な黄色の小さな小さなお花を出してくれました。妖精の魔法の花は、土の上で育つお花よりも輝いていて、生き生きとしています。

「……まぁ素敵。可愛いお花。」
『どこにいても、ずっとローズのそばにいるよ。ローズが大好きだよ。』
「デイジー。大好きです。」

 私はその小さな友人をできるだけ優しい力で抱きしめさせてもらったのでした。