学園時代も花屋で多忙だったこともあり、殿方と二人でお茶なんて初めてのことです。
 ましてやそれが、幼いころお慕いしていた公爵様だなんて!自慢のガーデンも霞むくらいの美しいお姿にクラクラします。

「ローズ」
「ひゃ、ひゃい!」

 突然公爵様に呼ばれ、おかしな返事をしてしまいました。ああ、穴があったら入りたい…。
 そう思い俯いた私に、衝撃的は一言が降り注ぎました。

「胸を、見せてくれ。」

(ムネヲ、ミセテクレ?)

 あまりの美しさに目だけではなく、耳までおかしくなってしまったのでしょうか。
 素敵な優しいアルトの声には相応しくない卑猥な言葉が聞こえたような…。

思わず公爵様のお顔を拝見しましたが、真剣な面持ちです。いやいやいや。

「い、今なんと?」
「…胸を、見せてくれ。」

聞き間違いではなかったようです。貞操の危機でしょうか!?ここ屋外ですよ?!
 しかも公爵様はごく真面目な表情。先程の微笑みもなければ、照れている様子もなく、かと言って悪事を働いてやろうとするような邪心もなさそうなお顔です。

 だとすれば、「あの事件に対する責任感」からのお申し出だろう、と予測出来ました。
 なので、ごく普通の理由でお断りすることに致します。

「公爵様、た、大変申し訳ございませんが、婚約者でもない殿方にお胸はお見せ出来ませんの…。」

 そして公爵様はひらめいた!という演技をして、「じゃあローズ、私と結婚しよう。」とまたも真面目な顔で言い放ったのです。