「屋敷の外は相変わらずか。」
「婚約がされてから、落ち着きはないですね。脅迫文なども届いていますが、奥様には秘密にしております。送り主は全員突き止め、抗議をしております…が。」
「…?」

 ダンが苦いものを思い出すような顔になる。この男がそんな顔をするのは珍しい。何か大事件でも起こったのかと思えば、この男にしては珍しく、他の貴族を憐れむ表情だったようだ。

「大旦那様がいろんな大貴族を没落させようとされておいでです。もう恐ろしい手口で……」

 つまりは私に求婚するだけならまだしも、ローズの身を脅かすような手紙を送ってきたり、企てた者は犯人捜しをされた上で、没落寸前まで落とし前をつけているということだろう。

「ほどほどにするようお伝えしてくれ。」
「承知いたしました。」

 なるほど、ローズは父上まで虜にしてしまったか。母上もノリノリで参戦してそうなところが恐ろしい。ローズは淑女教育など不要なほど知識も豊富で、剣術や馬術にも長けているそうだ。使用人にも優しく、あの気難しい庭師までも笑顔を見せる程、皆に慕われている。まだ公爵家にきて数週間だというのに。

 頼もしい婚約者を誇らしく思う反面、自分の手で守りたい……と願わずにはいられなかった。

 ダンは一通り報告を終えると、急ぎまた王都へと戻っていった。

(ローズ、君に会いたい)