連れてこられたのは、衣裳部屋。
 豪華なドレスが列をなす見事なクローゼットの先頭に、一際美しい白のドレスが飾ってあります。
 首元から胸にかけて見事なレース使いで、腰から下はふんわりと広がるプリンセスドレス。背中は大きく開いているけれど、腰に大きなリボンがあり、後ろもまたレースが贅沢にに使われています。

「ローズちゃんにドレスを作ったの!ダリアちゃんにサイズを聞いたのよ!」

 なんとお母様に?昨日の今日で?もう昨日から疑問ばっかりで頭がパンクしそうです。
でもこの美しいドレスが、私のサイズに合わせて仕立てられたことは、胸元を大きく隠す、流行とは異なるデザインであることから明らかでした。
 恐縮で言葉が出せないでいると、カタリナ様が優しく微笑みながら手を取ってくださいました。

「ローズちゃんを想って作った私渾身の一着なのよ。今日はこのドレスで婚約式をしましょうね!」
「…素敵なドレス…ありがとうございます…!」

 思わず涙ぐんでしまいました。こんなに素晴らしいドレスは、今まで着たことも見たこともありません!
 お花が大好きな私ですから、ドレスのデザインはお母様にお任せしてばかりで、今まであまり興味はありませんでした。
 だけど、いつか、素敵なドレスを着て、愛する人と婚約式が出来たら、と夢見たことはありました。
 嬉しくて、胸がいっぱいになりながらも、残る不安。私は気がかりなことを聞いてみることにしました。

「あの、でも…カタリナ様はよろしいのですか?」
「何がかしら?」
「私が、…ウィルと婚約すること、です。ウィルは公爵家を立派に継いで、王宮魔術師としても活躍しています。容姿も教養も身分も、きっともっと相応しい方がいるのではないでしょうか。」

 私の不安を感じ取ってか、カタリナ様は私の手をそっと両手で包んでくださいました。

「ローズちゃん、私ね、ローズちゃんが小さな頃から、貴女が大好きなの。お花の魔法も大好きよ。だから私は大賛成なの!嬉しくてたまらないのよ!」
「カタリナ様…。」

 なんて有難いお言葉。
 でも、胸の傷を確認したら、婚約破棄を言い渡される気がします。
 そうしたら、このドレスも、この指輪もみんな公爵家にお返ししなくてはいけないのかもしれませんね。あぁ残念。

「少し気が早いけれど、私のことも『おかあさま』って呼んでちょうだいね!じゃあお着替えが終わるのを待ってるわ〜!」

 カタリナ様はお元気に衣裳部屋を退出され、残されたメイドさんと私は急いで準備をしたのでした。