2人にアドバイスされた通り、まずは婚約式の前に二人で過ごすことにした。婚約式に使う指輪を受け取りに行くのだ。

 数か月前から発注していたこともあり、すぐに魔法石と台座を持ち帰ることが出来たので、思い出の地に二人で転移した。転移の時は体の一部に触れている必要があるため、私は堂々と彼女の腰を抱いた。甘い花の香り。俯いて照れている彼女がとても可愛い。

 薔薇の台座について聞かれたので、ローズをイメージして作ったと言うと、驚いた顔をした。
 気に入らなかったかと聞くと、「あの、とても、素敵です…。」と答えてくれる。だが、何故か不安げな、切なそうな顔をしている。まさか、本当に婚約を嫌がっているのだろうか。

「なぜ、そんなに浮かない顔をしている?」
「だって契約魔法で婚約してしまったら、本当に私と結婚しなくてはなりませんよ?」

 は?今何と言った?婚約を飛び越えて結婚しても良いくらいの気持ちだが?
 やはり結婚が嫌なのだろうか?

「ウィルは、私の胸の傷を確かめたかっただけなのでしょう?」
「嫌なのか?」

 彼女の手を取り、「私と結婚するのは、嫌か?」ともう一度訪ねた。嫌だと言われても、もう私は引き下がることなどできない。
 昨日君に会って、私はもう一度君に心を奪われたのだ。もう、逃がしてはやれない。

「嫌じゃないですけど!!私は花魔法しか使えない、ただの、伯爵家の娘で…」

 そこまで聞いて彼女を抱きしめた。
嫌じゃないと言われたことが嬉しくて。傷の責任のためだけではない、君が好きだ愛してると伝えたかったが、なんだか胸がいっぱいで何も言えないまま、彼女を抱きしめた。
 ローズはやっぱり花の甘い香りがして、私は何とも言えない幸福感に包まれながら、夢見心地で彼女を伯爵邸へ送り届けたのだった。