ですが、この婚約は、キズモノにしたことに対する責任感から決心してくれていたこと。

 昨日思い付きのような演技をしてくださったのも、私が気に病まないように配慮してくださったのかもしれません。

「なぜ、そんなに浮かない顔をしている?」
「だって契約魔法で婚約してしまったら、本当に私と結婚しなくてはなりませんよ?」

 婚約式をとても大切にする国民性から、婚約を覆すのはかなり醜聞を買います。
 そのようなリスクを前公爵様も私のお父様もお許しになるはずもなく、婚約式を私と行ったと周りが知れば、結婚しなくてはいけなくなると思うのです…。
 やっぱり婚約者じゃなくてもお胸を見せたらよかったのかしら。

 ウィルを見るとポカーンと驚いた表情をしています。

「ウィルは!私の胸の傷を確かめたかっただけなのでしょう?」
「嫌なのか?」

ウィルは不安そうな顔で私の手を取り、「私と結婚するのは、嫌か?」ともう一度訪ねてきます。
顔が、顔が近い!

「嫌じゃないですけど!!私は花魔法しか使えない、ただの、伯爵家の娘で…きゃっ!」

 そこまで言った瞬間、ウィルに抱きしめられていました。殿方に抱きしめられるだなんて生まれて初めてかもしれません!大きな胸板に、しっかりと抱き留められて、私は気を失うかと思いました。

 そして抱きしめられたことで、その先はもう何も言えなくなってしまい、二人とも何も話さないまま、私は伯爵家へと送り届けられたのでした。