『ローズ!起きて!ローズ!』

 デイジーが耳元で叫んでいます。
 起きなくちゃ、とは思うものの、目が開きません。

『朝だよ!ローズ!起きないと!』
「んん…」

 昨晩なかなか寝付けなかった私は、なんと寝坊してしまったようです…。うぅ、眠い。
 公爵邸に伺うのは午後からですし、もう少しだけ…。

『メイドさんがここに来るよ!それで、さっきからウィルが下にいるよ!』
「ウィル?!!」

 飛び起きると同時に、大きめのノックの音が響き、返事も待たずドアが開きました。

「お嬢様!起きてくださいませ!公爵様がおいでになりました!早くお支度を!」

 私の専属メイドで、姉妹のような存在のアンナ。
 ブラウンの髪をキッチリとまとめ、同じくブラウンの瞳を吊り上げています。我が伯爵家は風通しの良い職場なので、メイドであっても遠慮なく意見を言われますし、こうして寝坊も叱られます。

「ご、ごめんなさい!でも、なぜ朝から公爵様が?午後からのお約束でしたよね?!」

 慌ててベッドから降り、すぐ湯浴みに連行されながらアンナに尋ねます。

「分かりません、お嬢様が起きるまではお茶を飲んで待つと仰って、若様と歓談されております!」
「ええええ…と、とにかく寝坊してごめんなさい!」
「私の方こそ、申し訳ございません!旦那様から昨日はお疲れのご様子だったので、ゆっくり寝かせて差し上げるようご指示がありまして…!こんなことならいつも通りのお時間にお声がけすればよかったですわ…!」

 公爵様…ウィルの中で、私は朝もしっかり起きられないような体たらくだと思われたかもしれません。

「悔やんでも仕方がないわ!よろしくお願いします!」
「「「承知しました!!!」」」

 いつのまにか部屋に入ってきていたメイドさん達に囲まれ、私は史上最速でドレスと髪を整えました。