「そうですけど……黒瀬はなんというか、特殊じゃないですか。あんな常識から逸脱した人、初めて見ました」


コーヒーを受け取り、喉に通す。
そしてまた大きなため息をこぼした。


黒瀬彩羽の言葉がまた頭の中で繰り返される。


『男を釣るのは簡単だった。独占欲を煽って、殴られるのも簡単だった』


「……男をなんだと思ってるんですかね」
「さあな……」


柴崎は、動機が理解できないだけではなく、バカにされているような気がしていた。


同じ男として思うところがあるのか、繁田もなんとも言えない表情をしている。


「……まるで毒蝶だな」


繁田はそう吐き捨てると、どこかへ行ってしまった。


毒蝶という単語を聞いたことがなく、柴崎はスマホで調べる。


出てきたのは「毒を持った蝶」ということだけだった。


「蝶のような美しさを持っていながら、与えてくるものは毒、か……」


それは柴崎なりの解釈だ。
しかし妙に腑に落ちた。


「なんにせよ、捕まえられてよかった」


空になった缶を捨て、柴崎はその場を離れた。