逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る【2/14 後日談追加】

「……その包帯はどうしたんだ?」
「ああ、これですか? 川遊びをしていたところ、岩でちょっと切ってしまいまして。心配性なマリアが包帯をぐるぐる巻き付けているから大げさに見えるかもしれませんが、そんなにひどくはないのです。ただの擦り傷ですから」

 エステリーゼが淡々と説明すると、いつもは静かな彼女のメイドが目の色を変えて反論した。

「な、何を仰いますか! あんなに血がだらだらと垂れていたじゃないですか。止血のハンカチも全部血の色に染まって……私は生きた心地がしませんでしたよ!」
「だ、だからそれは謝ったじゃない。もう大丈夫だってば。血はしっかり止まったし、あれから何日経ったと思っているの。もう包帯も取っていいですよって医師からも言われたでしょう? 第一、こんな小さな怪我ぐらいで大げさなのよ。傷だってそのうち消えるようだし」

 いつもは大人びた彼女が、人差し指と親指を突き合わせる姿を見るのは新鮮だった。俺が呆気にとられていると、メイドが口を酸っぱくして主人に抗議した。

「少しは自分の体を大事になさいませ! その包帯は戒め代わりです」
「ええー……もう傷だって塞がっているのに……」
「――マリアの言うとおりだ。君はもっと自分の体を労るべきだ」

 俺が同意の声を上げると、エステリーゼがこちらを見た。
 まるで、味方の裏切りを知ったような顔だった。