逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る【2/14 後日談追加】

 けれど、それは早計なのだろう。無理に迫れば、慎重なエステリーゼの性格上、また逃げられることは想像にかたくない。
 ならば今は、このつかぬ間の幸せを噛みしめよう。





 それはある日のお茶会のことだった。
 ヴァージル公爵家で行われる、二人だけで楽しむ私的なものだ。
 最初こそ恐縮しながら我が家を訪れていたエステリーゼだったが、俺が一生懸命に話題を振ると、おかしそうに笑って緊張の糸を解いてくれた。
 それからはお互い気負いがなくなり、エステリーゼも気安く話しかけてくれるようになった。また一歩、親しい友人として彼女に認められたようで嬉しかった。
 月に一度のお茶会では、俺たちはお互い会っていない間の近況報告をし合っていた。

「そうそう。この間、メイドのマリアから教わってクッキーを焼いたのです。最初は火加減を間違えて真っ黒な炭になって慌てましたが、何度か練習を重ねるにつれて上達したのですよ。イレーユにも味見してもらったら、適度な焦げ目で美味しい、と言われました」
「……普通、友人なら味見を頼むものなのか?」
「そうですね、イレーユは親友ですから。じゃないと、不格好なクッキーの味見なんて頼めませんわ。本来、貴族令嬢は料理はする側ではなく、食べる側ですから。……どうかしました?」
「俺も……ゆ……友人なのだが」
「え? あ、そういえば、そうでしたね」