逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る【2/14 後日談追加】

 反射的に顔を上げる。そこには照れたように頬を染めたエステリーゼがいた。

「どうもありがとう」

 長年の付き合いだからわかる。これは社交辞令ではない、心からの感謝の言葉だ。
 穏やかな笑みをたたえた彼女があまりにも可愛くて、心臓が高鳴る。
 そのとき、身をもって痛感した。
 恋は落とすものではなく、何度も落ちるものだと。

 ◆◇◆

 エステリーゼとの友人関係は十二年間、続いた。
 彼女は結婚や婚約の話には敏感で、その手の話題が出ると、わかりやすく話を逸らしていた。だからこそ、今はまだそのときではないと己に言い聞かせ、俺は友人の座を死守した。
 舞踏会では彼女に粉をかけようとする輩を一睨みで撃退させ、何食わぬ顔で彼女と雑談を続ける。ヴァージル公爵家を敵に回したくない賢い男たちはそそくさと逃げ帰り、俺は友人として彼女のそばに居続けた。
 しかし、俺ももう二十歳。エステリーゼにいたっては十七歳だ。
 友人関係を続けるには、さすがにもう限界が近づいていた。

「さて今日、呼び出した件だが……」

 父上の執務室の机には、俺の婚約者候補の釣り書きが積み上げられていた。
 それらを一瞥し、毅然とした態度で自分の意見を述べる。

「俺が伴侶として選ぶのは、エステリーゼ・ウォルトン伯爵令嬢です。彼女以外の婚姻の話はすべて丁重にお断りしてください」