逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る【2/14 後日談追加】

 今までは化粧で着飾った彼女を心の中で賞賛する一方、気恥ずかしいという思いが上回って、直接彼女を褒めることができずにいた。過去、何度も言葉で伝えようと試みたが、それらはすべて口の中で空回りして終わった。

「……あ、その……」
「?」

 エステリーゼが不思議そうに見つめてくる。
 緊張で冷や汗をかく俺の姿が、彼女の檸檬色の瞳に映っていた。
 目を左右に泳がせつつ、ダンスで彼女の腰に回していた手をぐいっと引き寄せる。密着した彼女の体から、ほのかに甘い香水の香りがした。
 その香りにくらりとしながらも懸命に自分を律し、俺はエステリーゼの耳元で囁くように言うのが精一杯だった。

「…………。ドレス、似合ってる」

 エステリーゼを前にすると、俺の語彙力は途端に失われるらしい。
 もっと他にいい言葉はいくらでもあるはずなのに、脳がオーバーヒートしたように思考回路が機能しなくなる。
 女性遊びに慣れた悪友の口説き文句を真似するのは、恋愛初心者の俺にはハードルが高すぎる。そもそも歯の浮いたような台詞など、直接言うことを想像するだけで羞恥心でどうにかなりそうだ。
 俺は真剣に彼女を愛しているし、やはり安っぽい口説き文句はふさわしいと思えない。

(くそ、面と向かって言えないなんて……恥ずかしくて死にそうだ)

 耳を赤くしていると、ふふっと楽しげに笑う声がした。