逆行令嬢は元婚約者の素顔を知る【2/14 後日談追加】

(何か間違ったことを言っただろうか……? それとも、俺がダンスに誘うのはマズかったか? いや、まさか……そんなはずは……)

 ぐるぐると嫌な妄想が頭を駆け巡る。
 お互い婚約者もいない者同士。若い男女がダンスをするなんて別段珍しくないはずだ。

「はい。……喜んで」

 形式的な言葉とともに、おずおずと彼女の指先が俺の手の上に載せる。
 落ち着いたように見えていたが、やはり彼女も少なからず気を張り詰めていたのだろう。
 できるだけエステリーゼの負担を軽くしようと、俺は彼女が踊りやすいようにリードして会場内をくるくるとステップを踏みながら移動していく。
 そして、曲が終わる。お互い礼をすればダンスは終わりだ。
 長いようで短い幸せの時間はあっけなく終わり、それを待ち構えていたように、横から割り込んできた数人の男が次のダンスの相手に名乗り出る。その中から一番純朴そうな人物の手を取り、エステリーゼは再びダンスの輪に入っていく。

「…………行ってしまったか」

 婚約者ではない男と何度も踊るのはマナー違反だ。
 他の男が彼女にダンスを誘うのを止める資格は今の俺にはない。それがとても歯がゆかった。ただの友人にすぎない俺は、せいぜい一回相手してもらえばいいほうだ。
 もどかしい思いに駆られながら、彼女の後ろ姿を目で追う。
 胸に巣くうのは狂おしい熱情。

(……好きだ)