あれは私の夢だが夢ではない。
あれは私の過去だ。

私はただの日本という国の社会人ではなかった。あの異世界のあの国の姫、それが私だ。

私は愛に飢えたお姫様で夢のように彼らを無理矢理軟禁して愛を強要した。だが、あることをきっかけに家族との間にあった壁が壊れた。私はそこでちゃんと愛されていたことを知った。愛されていたからこそみんな私を好きに生きさせたし、むしろ姫である重圧から解放させようと必死だったのだと、伝えられて、家族と私は和解した。

そして愛で満たされた私は自分がしてしまったことに気がついたのだ。だから恋人たちである彼らの解放を望んだ。
だが結果は夢と同じ。彼らは何故かそれを拒んだ。

だから今の私のように私は決めたのだ。彼らの前から姿を消す、と。


まず彼らの前から物理的に消える為に彼らがどんなに探しても見つけることのできない異世界へ行くことを望んだ。異世界へ行く方法は王族のみしか知らないからだ。そして私はその秘密の方法で解放を口にした一ヶ月後には異世界である日本へ一人で逃亡に成功した。
それから私は異世界で普通に生活できる環境を魔術で整えた。
これでも十分だったが、もし万が一彼らが私を真剣に探した時の為、そして、私という存在へ罰を与える為、私は自分の記憶を消して、自分とは違う架空の人物の記憶を自分へ植え付け、魔術の力を自ら封印した。

魔術の力はその人を探知する為の方法の一つだ。それから記憶も。それらがなくなれば私を探す難易度はぐっと高くなるはずだ。
そして姫である自分を殺して、私は私自身に罰を与えたつもりだった。

つもりだったのに。
全てを思い出してしまった。

じゃああの夢は何なのか。私の過去を振り返っていたのか。
いや、あの夢には私が体験したことのない日常も紛れていた。例えば恋人たちが私の静止を聞かずに私を抱き続けたあの夜とか。