もう大丈夫ですって先生に言おうとしたのに、そんな私の言葉を樹くんが遮った。

 え、何言っているの?

 私が困惑していると――。


「だからもう、俺たち早退しますね」


 樹くんはそう言った。

 先生を真っ向から見据えながら、はっきりと。

 淀みのないその言いっぷりは、彼が心からそう思って言っているように、私すら思えた。

 すると先生は心配そうに私たちを眺めた後、こう言った。


「そう、わかったわ。担任の先生には私から伝えておくわね。ふたりとも、早く帰ってゆっくり休んでね」


 先生は樹くんをまったく疑わなかったようだ。

 そりゃ、あれだけはっきり言われちゃ疑えないよね……。

 嘘だって知っている私ですら、「私具合悪かったっけ。これだけはっきり言われてるんだから、そうなのかもしれない」と一瞬思っちゃったくらいだし。


「はい、分かりました。じゃ、帰ります」


 そう言うと、樹くんはすたすたと歩いて保健室から出て行ってしまった。

 この流れで、いまさら「いや私は具合はもう大丈夫なので早退はしません」なんて、私には主張できなかった。