君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように

 ドキドキしながら、ページをめくっていた私だったけれど。


「栞」


 不意に頭上から名前を呼ばれた。

 そんなに打ち解けていない時から、私を呼び捨てで呼んできた彼。

 名前を呼ばれるだけで、心の底から嬉しさがこみ上げてくる。

 ――だって、もしかしたら、もう二度と名前を呼んでもらえないのかもしれなかったのだから。

 私は顔を上げる。

 すると頬を雫が伝った。

 それを見ると、彼はぎょっとした面持になった。


「えっ!? なんで泣いてんのっ?」

「わっ、ご、ごめん。じ、自分でも泣いてるの気づかなかった……!」

「ええ?」

「しょ、小説に感情移入しすぎて……。知らない間に泣いてたみたい……」


 お話を読んで真剣に泣いてしまうなんて、なんだか恥ずかしくなってしまった。

 状況を理解したらしい彼は、くすりと笑った。

 ――そして。


「なんだ、そーなの。ま、栞らしいじゃん。ってかごめん、遅くなって」


 彼らしく、のほんとした面持ちと声で言った。

 ――そう、樹くんらしく。


「でも、本当に時間かかったねー。本一冊読み終わるところだったよ」