「あー、うー、その節は失礼しました。でも、陽菜からのチョコは嬉しくなかったですか?」

 先輩が一瞬、言葉を失う。

「はいはい。嬉しいですよね。他の誰からもらっても、多分、先輩はうっとうしいなって思うんだろうけど、陽菜からのチョコなら義理でも嬉しいですよね」

 思わず、ニヤニヤ笑ってそう言うと、先輩は複雑な顔をする。だけど、

「すべては否定しないよ。けど、寺本からのはうっとうしくないし、嬉しいと思ってる」

 と、逆によそ行きの極上の笑顔で微笑みかけられて、私は頬が上気するのを感じた。

 よそ行きだけど、よそ行きじゃない先輩。
 こんな、人をからかうようなこと、多分、私以外にはしないもの。

「付き合い始めたばかりの彼女から、明らかに別の人からのチョコを渡される気持ち、分かる?」

「え?」

 思わず先輩の顔を凝視した。

 それって、少しくらいは私のこと……、って言うことですよね!?

 続く言葉を待ちながら、胸が高鳴るのを感じた。
 でも、先輩はニッコリ笑うだけで、それ以上は何も言ってくれなかった。

 思わず、

「……ですよねー」

 とぼやくと、先輩はまた楽し気に笑い出した。


(完)