バレンタインデイ当日の放課後。
 過去何度か一緒に来たカフェの窓際の席に二人で座った。

 オーダーの後、

「はい、どうぞ」

 と、私が差し出したものを見ると、先輩は怖い顔をした。

 あれ?

「……で、なんでチョコが4つもあるの?」

「あ、しまった。これですこれ。私からはこの紺色の包装紙のチョコです」

 テーブルの上に並べられた4つのチョコ。
 その中から、私は一つを選んで、スーッと先輩の前までスライドさせた。

「ありがとう。……で? 残りは何? 誰か他の人間からのなんだよね?」

 と、気合の入ったいい笑顔で私を見据える先輩。

 その笑顔、怖いですって。

 うーん。順番間違えちゃった……よね。

 陽菜からのチョコを渡したら喜ぶかなって思ったんだ。で、まずは自分のをとか考えずにうっかり全部出しちゃった。

「えと、これ、陽菜からです」

 残り3つの中から、小ぶりな水色の包装紙のチョコを持ち上げて、先輩の前に置きなおす。

「ハルちゃんから?」

 先輩が目を見開き、陽菜からのチョコを手に取る。と同時に、硬質な空気がふっと霧散して、先輩はやわらかな笑顔を浮かべた。

 ……ああ。

 先輩が喜んでくれて良かったと思っているのに、少しだけチクリと胸が痛む。

 知ってると思いますけど、それ、義理チョコですからね。