闇の夜に咲く、一輪の華

もし私が普通の高校生だったらどんな感じだっただろう。今こうして呼び出された場所に向かう時も、軽い足取りだったのかな。

普通に友達と遊んで、恋人もできてそんな高校生活、私も送ってみたかった。

こうして絶望してみても現状は何も変わらない。落ち込んでいるせいか、いつもより廊下が寒く感じて身震いした。


ガチャッ──。
ドアノブの静電気に注意しながら私はドアノブを捻った。

私は憂鬱な気持ちのまま美術室に入る。美術室は絵の具の独特の匂いが充満していた。この匂いはそんなに嫌いじゃない。

「桐ヶ谷?」奥の方にいた男子生徒に話しかけられる。テレピンの匂いに満ちた美術室でも、香水の匂いが遠くからでも分かる、苦手だ。

「そうだけど、何?」
こういう人には特に優しくしないこと、今までの人生で学んだことだ。

「俺、入学式の時から桐ヶ谷のこと可愛いと思っててさ〜。俺と付き合わない?」

髪を整えながら男子生徒は言う。気分が悪い、こういう人が私は一番苦手だ。

「すみません、恋愛に興味が無いので。」
下を向いたまま一切表情を変えずに私は答える。そうでもしないと泣いてしまいそうだ。
我慢するのも疲れる。

「俺と付き合ったら興味わくかもよー?」
この人のように浮ついた人は嫌いだ、虫唾が走る。

「それはない。それに許婚がいるから。」
私は初めてその男子の方を真っ直ぐ見て答えた。

「そんな冗談止めてよ〜。許婚っていつの時代だよ」
私の事情をなんにも知らないくせに何を言っているんだろう。思わず拳に込める力が強くなった。

「冗談と思うなら零夜に聞けば?」
抑えろ、ここで気持ちを表に出してはいけない、感情を殺せ。

「零夜ってお前のクラスの月城?」
何故か香水の匂いを先程より強く感じる、吐きそうだ。私は無意識に口元に手を当てていた。

「そう。」
感情を人前でだしたら終わりだ、落ち着け。
母に教わったじゃないか、むやみに感情を外に出さない。
今も昔も感情を殺すのは慣れているはずなのに、何故だろう怒りが抑えられない。

「マジかよ〜。ならいいや〜。せっかくいいやつ見つけたと思ったのによ〜。」
残念そうに呟き、彼はポケットからスマホを取り出した、まるで次の獲物を探すみたいに。
 
その一言が私は許せなかった。
私は自分をモノのように扱われるのが何よりも嫌だ。

こんな風に女性を見下すような発言をする人なら尚更嫌いだ、目の前にするだけで虫唾が走る。

私は彼を思い切り睨みつけた。
でもきっと、普通の男子生徒を相手にした私の眼光はそれほど鋭いものではなかったはずだ。

「何その目〜?怖いんだけど〜。」
今でも尚余裕そうな表情を見せている彼。

「は?」心の底から理解できなかった。

特に目的意識もなく日々何となく過ごしているそんな奴に、自分を侮辱されることがどうしても許せなかった。



お母さんには申し訳ないけど、やっぱり私はお人好しにはなれない。

嫌いな人は嫌い、嫌なものは嫌だ。


「そう冷たくしないでさ〜」
と彼が腕を私の方に乗せてきた瞬間、私は彼の首元に1回手刀を入れて気絶させた。