「ただいま。」
私はいつものように学校を終え、家の蔵に直行した。門から蔵まではだいぶ距離があるから、少し歩くのが大変だ。
いつものように真顔で挨拶をした。家の敷地内とはいえ、気は抜けない。
『おかえりなさいませ。総長!』
族員は声を揃えてそう言った。これも日々の私の統率力のおかげだろうか。
「あぁ、みんな揃ってる?」
周りを確認してみると全員揃っているようだ。
「真翔、広翔、美波、健二。」
4人の名前を呼ぶ。
「帰ってるよ〜」と2階からいつもと変わらない元気そうな声が聞こえてきた。
『ちょっと話したいから陽影のみんなも呼んできて欲しい。』最近は話しても話しても話題が尽きない。それほど近所の治安が悪化しているんだろう、疲れが取れなくて辛い。
『わかった〜!』誰かが返事をした。
放課後も蔵でトレーニングをする人は多い。
常に騒がしい蔵で声を聞き分けるのは至難の業だ。
そう話すと5分足らずで皆がやってきた。2階の幹部室で会議を始める。
幹部全員は幹部室のソファに向かい合って座っている。これがいつもの会議のスタイル。
「愛佳、慎二、修也、守。いる?」
私が呼びかければ反対側から声が帰ってくる。
『いるよ。』
「おう。今週末に力龍と抗争だ。
場所は百合ケ丘公園。雑魚だから、それぞれ幹部2人と組員50人で足りるな?」
地図で百合ケ丘公園までの経路を確認する。
少々遠いが道は複雑ではないようだ。
『足りると思う。』
同じ資料を手にしている幹部が答える。
「だから行く幹部2人を決めて欲しい。それと、健二と美波は残って組員の訓練をして欲しいんだ。」
格下相手に余計な戦闘力は要らない。さっさと片付けて警察に引き渡すだけだ。
「今年中に青竜が攻めてくるはず、それまでにできるだけ戦力を高めたい。
健二は喧嘩の訓練、美波は怪我してる奴らに薬の作り方教えてやって。」
幹部達に私は素早く指令を出していく。
一応言っておくが作っているのは、もちろん違法な薬ではない。
あくまで戦闘の時に使う睡眠薬だ。
私たちの本来の目的は戦闘で人を傷付けることではない、罪を償わせる事。
できるだけ人を傷つけたくない、だから睡眠薬を使う。
「それから、零夜と真翔は今から俺と睡眠薬の訓練だ。」
「あれ嫌だ〜。」真翔は今にも泣きそうな顔をしている。
「は?拒否権なんてない。やるの。」
私だってこんなことしたくはない。わざわざ自分の体に睡眠薬を打って覚醒しようともがくなんて苦痛でしかない。
それでもやるのはどうしても倒したい敵がいるからだ。
「華月姉怖ぇ〜。」
私は普段は普通の姉だが、族にいる時は仕方がなく男口調気味で喋っている。
女だからと舐められないように、男口調で喋っているのだ。事実、組には女は認めないというスタンスの人間もいる。
私は女だからと見下すような発言をする人が大嫌いだ、だからこそ性別による偏見を少しでもなくしたい。
「俺行く!」「俺行きます!」「私たちが行く。」慎二達が次々に返事をする。
「よろしく。怪我はしないように。」
「分かってるって。」
明らかに格下の相手だ、こちらが傷つけないよう注意するべきほどに弱い。それでも何が起こるかわからないから私は不安だ。
「それと至急女子を増やして欲しい。美姫と輝姫は全員女子で構成されてるだろ?なら、こっちも女子だけで戦おうかと思う。」
いくら暴走族同士の争いとはいえ、全国トップの族が女子相手に抗争を仕掛けるのは不平等だ。
「愛佳、華月のそういうとこ好き。」
愛佳が私に抱きつく。柔軟剤のいい匂いする。…重要なのはそこではないが。
彼女はとても可愛らしい見た目で、一見守ってあげたくなるような女の子だ。
大きな目に長いまつ毛、綺麗な鼻筋と唇。
華奢なのにスタイルのいい彼女に魅了された人は男女問わず多いだろう。
だがしかし喧嘩のこととなると人格が変わったかのように戦い出す。その腕は全国で五本の指に入る。
ちなみに全国順位は、零夜、私たちの最大の敵朱雨、私、真翔、愛佳だ。
ただこれは純粋な戦闘力の話だ。汚い手を使ってくる朱雨に零夜は負けるかもしれない。
ちなみに愛佳は足技が得意で、自分に絡んでくる鬱陶しい男子や女子を回し蹴りで倒しているという。
しかも倒し終わった後に必ず『二度と私の前に現れるな。』
と言っているらしく、その様子は誰が見ても怖い。
人一倍悪人に対しての嫌悪感は強いようだった。
私たち幹部は全員何かしらの傷を抱えて生きている。敵を倒したい、その思いは皆同じだ。
そうだ、あの時に愛佳はお兄ちゃんを殺されたから。



