離れない。離さない。


「ぷっ…!すっごい緊張してるね」

麻酔科の先生にまで笑われてしまうわたしって…。

「あ、あ、あのっ…!この、あまい香りって…っ」

「あぁ、アロマオイルだよ。もしかして甘い香り苦手だった?」

アロマオイルかぁぁいっ!!!

真っ白な顔色しながら心の中では顔を真っ赤にしてツッコミ入れてみた。

しかもわたし、甘い香り苦手ですからぁ!!

「い、いいえ…っ!だっ、大丈夫ですっ」

ああ、この先生に裏腹な心の声を聞かせたいっ。

「じゃあここまでゆっくり歩いてきて。ゆっくりね」

心の中では「ぎゃああぁぁぁ!!」とか「うぉぉおおおお!!」と絶叫しながら黙って言う通りに従うわたし。

そして、ベッドにそっと横になると、素早く血圧と心拍数を計るベルトを巻かれ、その数値にまた先生が吹いた。

「き、君っ、本っ当に凄い緊張してるね。血圧と心拍数はんぱないよっ?」

側に立っていてくれてる看護婦さんもクスッと。

なんなの!?わたし泣きたいんですけどぉ!?

「んんっ!じゃあ今から麻酔の点滴を始めます。眠くなってきたら教えてね」

ひとつ咳払いをした先生の顔から笑顔が消える。

…どうしよう。怖い。どうしよう。

恐怖で微かに体が震え出す。

「大丈夫よ。眠るまで手を握っててあげるからね」

そんなわたしの汗で冷たくなった左手を優しく握ってくれる看護婦さん。

「…じゃあ、始めます」

スッ…と点滴の針が腕に刺さり、点滴が体内に入ってきたと感じた瞬間、ぐるりと世界が回った。

「あ…、ちょっとヤバイかもです…」

「…そのまま目を閉じちゃって」

「…は……」

「い」と言う言葉ごと、あっという間に深い闇に吸い込まれていった。