ガラガラと点滴を引きながら病棟のロビーまで歩いてきた。
わたしが座れないからか旦那さんもわたしの横で立ったまま大きな窓の方を向く。
わたしも続いて同じ方を向くけど、目線は下。
「…あまり考えないで?考えすぎるとかえって体調悪くなっちゃうよ…?」
「…」
「楽しいこと考えよう?」
「…楽しいこと?」
「うん。…そうだなぁ、退院したらうちの両親がお寿司ご馳走するって言ってるけど、ふたりでも何処か美味しいもの食べに行こうよ。あとは、春服買ったり。そうだ!動物園に行きたがっていたよね?沢山歩いても大丈夫って許可おりたら動物園にも行こうよ」
ニコニコしながら話す旦那さんを見てたら胸がぎゅうーっと苦しくなって旦那さんの袖を掴んで静かに涙が流れた。
それに気付いた旦那さんは「はいはい」と、まるで幼い子供をあやすように背中をポンポンしてくれた。
「怖くないよ、怖くない」
その言葉が温かくて、余計に涙が留まらなかったのはナイショ。
その後、面会時間が終わるからとみんな帰って、ひとりぼっちになった。



