教会に話を通したのは、貴族平民問わずミサ(こちらでは『祭儀』と呼ばれ、前世の教会のように週一で信者に神の話を聞かせたり、聖歌を歌う)が行われているからだ。
 そんな祭儀で、教皇に愚痴聞き改め、寄り添いについて説明して貰う。愚痴と言うと、ネガティブな表現なので興味より先に嫌悪感を抱かれそうだったから、これを機会に変更した。
 そして祭儀の終盤に差し掛かった頃、白地に金糸の刺繍の施された長衣を纏った教皇が説明を始めた。

「今までは、不安になったり納得いかない場合、自分で解決することが自立の一歩と考えられていました」

 そこで一旦、言葉を切った教皇に、聖堂に集まった信者達の視線が集中する。
 それに眼差しで頷き返すと、壮年の教皇は低いよく通る声で、話の先を続けた。

「ですが、タリタ修道院の聖女は言いました。悩みを持った者に意見を告げて行動させるのではなく、ただ優しく寄り添うことで……人に聞かせる為に口にすることで、その者は悩みと向き合い、乗り越えられるのだと」

 その言葉に、信者達がざわつく。けれど心惹かれるのか、周囲と顔を見合わせた後、信者達の視線は再び教皇へと向けられた。

「それ故、タリタの聖女は明日から毎日、昼から二時間ほど皆様の話を聞くそうです。この行為は寄り添いと名づけられ、修道院の聖堂に専用の小部屋が用意しています。まずは質問だけでも、聖女は受け付けているそうですよ」
「……それは、平民でも?」
「勿論です。我々同様、貴族平民問わず対応します」
「まあ、それは……興味深いですわね」

 最初は商人の男が尋ね、次いで貴族の夫人があいづちを打つ。そんな一連の流れを、アルスは聖堂の隅から眺めていた。

(昨日も思ったが、本当に聖女様は素晴らしい)

 そしてしみじみとそう思い、次の日、アルスは王宮で授業を受けに集まった王太子達に話をしたのだが――。

「俺の時みたいに、大人達の話を聞くのか? 子供なのに、聖女は本当にすごいなっ」
「流石、アルス達を返り討ちにするだけあるな」
「…………」

 エドガーと直接、会っていないユリウスが口々に感心したように言う。
 一人、黙っているケインに引っかかり、アルスが視線を向けると――不意に席から立ちあがり、ケインはキッとアルスを睨みつけてきた。

「何故、あなたはそんなことを許したんですか!?」
「……ケイン様?」
「仮にも侯爵令嬢が、平民を相手にしようとするなんて……許せませんっ」

 そしてキッパリ言い切ると、驚くアルス達を残してケインは部屋を後にした。