ヒロイン視点



 高熱で寝込んだ後、自分が乙女ゲーム『True Love~幸福を探して~』のヒロイン・エマに転生したと気づいた瞬間に、わたしが思ったのは。

(推しキャラ達と、リアルに会える!)

 なんて、我ながら残念なことだった。
 ストーリーはシンプルだが、イラストが綺麗で眼福だった――ヒロインや攻略キャラは勿論だが、ライバルの悪役令嬢まで麗しかった。おかげで、推しキャラ以外も全キャラのスチルを集めたくてやり込んだものである。
 ちなみに、このゲームの攻略キャラは、四つ葉の意味である『愛情・信頼・勇気・希望』をコンプレックスとして抱えている。そして魔法学園に入り、彼らと出会うヒロイン(つまりわたし)が、推しキャラの婚約者である異母姉に何かと絡まれつつも、攻略キャラのコンプレックスを受け入れて癒すことで、親密度が上がって恋愛エンドを迎えるのだ。
 あ、つい役割の『悪役令嬢』って言ってるけど、彼女の主張は「婚約者のいる男性に近づかない」や「もっと勉強して、相手に相応しくなるように」という至極真っ当なものだ。だからゲーム中、わたしは推しキャラである王太子・ユリウス様の攻略もだが、少しでも彼女に認めてほしくて頑張ったものである。

(いや、まあ、結局はヒロインと攻略キャラがくっつくとイザベル様、婚約破棄されるんだけど……ざまぁじゃないとは言え、あれは泣く! あ、でも中身がわたしなら下手に邪魔しなければいいのかな? そうすればユリウス様とイザベル様、婚約するかしら……よしっ、そうなったらこの目にキャラ達の美貌をしっかり焼きつけて、心のアルバムに収めまくるわっ)

 そう心に誓い、両親に連れられて異母姉であるイザベル様とのファーストコンタクトを果たしたわたしだったが。

「失礼いたしました、お父様……初めまして、お義母様方。イザベルと申します。よろしくお願いいたします」

 艶やかな黒髪ストレートと、琥珀色の瞳。怖いくらいに整った美貌と、優雅なカーテシー。そして、鈴を鳴らすような美声に圧倒され。
 ……その為、イザベル様の台詞がゲームと違う(ゲームでは「私の母は亡き母一人。母にも、私一人……妹も、おりません」だった)と気づくのに、しばし遅れ。
 気づいた時には、イザベル様の修道院行きが決定していたのだった。