私は学校へ行く用意を終えると、玄関を飛び出した。

梅雨時の湿気を含んだ空気のせいで前髪がうまく決まらずうねってしまう。

必死に指先で伸ばして整える。

今まで前髪なんてどうだってよかったのに。

『前髪が決まらないと一日中ブルーになっちゃう』

というリリカちゃんお決まりのセリフを思い出してふふっと一人で笑ってしまった。

リリカちゃん、今日は遅刻しないで来るかな。元気な姿が見たい。

私は月。そして、彼女は太陽。

太陽のような眩しい彼女に照らされたい。

私は彼女のように一人で輝くことはできないかもしれない。

それでも、夜空を照らす月になりたい。


「でさー、そのユーチューバーが超可愛くてさ~」

教室に足を踏み入れ、私はホッと胸を撫で下ろした。

自分の席に座り、嶋田さんと浅川さんと楽しそうに談笑するリリカちゃんの姿がそこにあった。

やっぱり昨日見た少女はリリカちゃんではなかったのかもしれない。

ゆっくりとした動作で自分の席に向かい椅子に腰かけると、リリカちゃんがクルリと振り返った。