空を見上げると、夜空に月が輝いていた。

月になりたいと思った。満ちたり、欠けたり色々な表情を見せる月。

辛くても幸せを逃がしたくないあたしはいつも同じ表情でいなくてはならない。

太陽みたいにずっとニコニコしているのは窮屈だ。

萌奈になりたいと思った。

素敵な両親、心優しい隣人の斎藤さん、綺麗な家、温かい家庭。

あたしが欲しい全てを彼女は持っている。

でも、きっと彼女はあたしには分からない心の傷を抱えて生きている。

背後に人の気配を感じて振り返る。

でも、そこには誰の姿もなかった。

萌奈が追いかけてきてくれたのかと思った。

彼女なら……そんな風に思ってしまった。

あの時、ピンチだったあたしを救ってくれたように。また、彼女が――。

そんな都合のいいこと、起こるはずがないのに。

「バカだ、あたし」

独り言を呟くとあたしは全ての運命を受け入れ、重たい足をひきずるようにして家を目指して歩き始めた。