「ちょっと用があったので。今から帰ります」

淡々と答える。

『お前、俺に嘘ついてただで済むと思うなよ!?あぁ!?』

「今から帰りますから」

『おい、お前の教育がなってないから娘が嘘をつくようになるんだろうが!!』

高橋の怒鳴り声のあと、電話口から物凄い音がした。

何か固い何かが割れるような音。母の悲鳴。高橋が母を恫喝する声。

「や、やめて――!!」

『うるさい!!誰のせいでこうなったと思ってる!?お前が嘘をつくからだろう!!違うか!?』

『たっくん、やめて……!!痛いよぉ!!』

母の泣き叫ぶ声が電話口から漏れ聞こえてくる。

「ごめんなさい!!」

あたしは叫んだ。

母に暴力を振るっているであろう高橋を止めるためには謝ること以外あたしにできることは何もなかった。

「ごめんなさい……」

『あぁ!?聞こえねぇーぞぉぉ!!』

酒が相当まわっているのかもしれない。呂律の回らない高橋の口調にうんざりする。

「ごめんなさい……」

『なんで俺が怒ってるのか分かってんのか!?』

「あたしが……嘘をついたからです」

『そうだろ!?お前が嘘をついたからお前の母ちゃんが俺に怒られてんだよ。可哀想になぁ、母ちゃん泣いてるぞ?お前のせいでなぁ』

「ごめんな……さい……」

どうしてあたしが謝らないといけないの。

確かにバイトが終わったと嘘をついたのはあたしだ。

だけど、母を殴ったのはアンタじゃない。

怒鳴りつけたのも、物を壊したのも、全部アンタがやったことじゃない。

それなのに、どうしてあたしが謝るの?