手のひらがヒリヒリと痛む。蹴られた腰はきっと青あざになりしばらく跡が残るだろう。

「マジ痛いんだけど……」

鼻の奥がツンっと痛んであたしは慌てて唇を噛んだ。

泣くな、リリカ。笑うんだ。こんなことぐらいで泣いて幸せを逃がしたりなんかしない。

目の前の歩道を2、3歳ぐらいの女の子と母親が手を繋いで歩いている。

歌を歌っているようだ。

その姿が楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうで。

ああやって母と手を繋いで歩いた記憶のない人間なんてこの世にあたし以外存在するんだろうか。

手を繋ごうとして振り払われたりすることは普通の親子ではないんだろうか。

あたしは普通じゃないんだろうか。あたしの家族は普通じゃないんだろうか。

そもそも、普通っていったいなんだ?それすら分からないなんて本当に終わってる。

「バイト行かなきゃ」

小さく息を吐きだす。

仕事をしなければ、あたしはもちろん母だって生きていけない。

高橋にだけは絶対に頼りたくない。

幸せそうな親子から目を反らすと、あたしは自転車置き場に置いてあるいつ壊れてもおかしくないボロボロの自転車にまたがった。