その日から彼女は度々私に声をかけてくるようになった。

最近では、彼女は私のことを『もえもえ』でなはく『萌奈』と呼び、私は彼女のことを『リリカちゃん』と呼んでいる。

リリカちゃんは「ちゃん付けしなくていいよ~!同い年なんだから!」と言っていたけど、そんな簡単に呼べるはずもない。

そもそも私とリリカちゃんが言葉を交わしているだけで、リリカちゃんのグループの子達が不愉快そうな顔をしているのに気付いていたから。

彼女がどうして私に声をかけてくるのか全く理解できないけれど、一つだけ断言できることがある。

彼女は私だから声をかけてくるんじゃない。

自分が声をかけたいと思ったタイミングで誰にだって声をかけるのだ。

それはもう自然に。誰とでも平気な顔で会話をしている。

それにしても。

授業が始まると早々に前の席に座る彼女は綺麗な髪を揺らしながら船を漕ぎ始めた。

授業中、寝ていることも多いのになぜかテストの結果は毎回学年1位だったりするから不思議だ。

放課後は学校の先生にバレないようにコンビニで夜の10時までバイトもしているらしいし、一体いつ勉強しているのか不思議だ。

授業が終わると、彼女はすっきりした顔つきで振り返り唐突に言った。

「ねぇ、萌奈のライン教えてよ」

「ライン?」

「そうそう。交換してなかったじゃん?」

「してなかったけど、どうして……?」

「今思いついたの。してなかったなぁ、って。そうすれば学校以外でも連絡取り合えるじゃん?」

学校以外でも彼女は私と連絡を取り合う気なんだろうか?

……一体、なんで?

だって彼女には私と違って友達がたくさんいるし、私と連絡を取り合う必要があるとは到底思えない。