母の言いつけの通り学童に入らず、放課後は友達の家で過ごす日が多くなった。

でも、自分から『行きたい!』と主張したことはなった。それはしてはいけないことだと幼いながらに気付いていたのかもしれない。

『おいでよ』と誘われると必ずその誘いには乗ったけれど、自分の家に誰かを上がらせたことはなかった。

母が嫌がったからだ。でも結局、しばらくするとあたしは『放置子』と呼ばれて親の間で疎ましい存在になってしまったようだ。

その噂はたちまちクラス中に広がりあたしと一緒に遊んでくれる子は誰一人としていなくなってしまった。
悲しかったけれど、それも仕方がないかもしれない。

毎度家に遊びにこられたら迷惑だと感じる親もいるだろう。

それならばと『家じゃなくて公園で遊ぼうよ』と友達に声をかけたけどそれもムダだった。

『リリカちゃん、お菓子持ってこられるの?公園で遊ぶときみんな家からお菓子持ってきて食べるの』

そう言われてあたしは首を縦に振ることができなかった。お菓子を買うお小遣いもないし、家にお菓子もない。

黙っていると友達は追い打ちをかけるように言った。

『人の家に遊びに行くときもお菓子とかなんか持ってくるんだよ?うちのお母さんが言ってたよ。リリカちゃんは一度も持ってきたことがないって。靴も揃えないし、お邪魔しますも言えない。親も常識がなければ子供も常識がないって。だからリリカちゃんとは遊べない』

晴天の霹靂だった。

他人の家に遊びに行くときに手土産を持っていくということすら知らなかった。

もちろん、人の家に上がったら靴をそろえることも。

お邪魔します、なんて言ったこともない。

今思えば母はあたしに何も教えてくれなかった。

生きていくうえで大切なこと、いや、当たり前のことすらも何も。

もしかしたら、教えなかったのではなく母も知らなかったのかもしれない。

急に恥ずかしくなった。

あまりに無知な自分が恥ずかしくてあたしは翌日、学校の図書室で何冊もの本を借りた。

小学生で覚えておきたい教養や身の回りのことなどありとあらゆる本を読み漁った。

子供は親の背中を見て育つ、ということわざも本の中で知った。

母の背中を見ていたら自分はきっとダメな人間になってしまう。

だから、必死に本を読み、勉強をした。

周りの人間に迷惑をかけないように、常識外れのことをしないように、放置子などと陰で噂されないように。

あたしは必死だった――。