『ずっと思ってた。誰かに必要とされたいって。誰かの特別になりたいって。リリカちゃんは私にって特別な人なの。だから、私もリリカちゃんの特別になりたい。必要とされたい』

萌奈だけだったんだ。あたしのこと、必要だって言ってくれたの。

母にも高橋にも疎ましく思われてるあたしだけど、萌奈は必要だって言ってくれた。

あの時、ちょっと泣きそうだった。

胸が震えるってこういうこというのかなってそんなこと考えていた。

誰かの言葉でこんなにも感情をゆすぶられるのなんて初めてだった。

萌奈は今までに出会ったどの友達とも違う。

友達はたくさんいる方だと思う。自分から声もかけるし、声もかけられることも多い。

だけど、あたしはその他大勢の中の友達の一人で誰かの特別になれたことなんて一度もない。きっと心から必要だと思われたことだって。

すずと杏奈だってそう。

高校に入学してからできた友達だけど、二人があたしのことをよく思っていないことも知っていた。裏で悪口言われてるのも、全部知ってた。

それに、二人はあたしに興味なんてなかった。

上っ面だけ見てただけ。この学校は進学校だし、見た目が派手な人間はほとんどいない。

あたしのように髪を染めて校則違反をしているのは数人だけ。だから、スクールカーストとかいうくだらない階級にこだわって目立つあたしに引っ付いていただけ。

ようは利用されていただけ。

でも、あたしも心の内を二人に見せたことはないし二人を責める権利なんてない。

どうして髪を染めているのか、カラコンを入れているのか。二人は全部知らない。

心の中であたしは一線を引いていたのかもしれない。

本当の一橋リリカを知られたら、二人に幻滅されてしまいそうだったから。

【2年A組、一橋さん。一橋リリカさん。至急職員室へ来てください。繰り返します。一橋リリカさん、至急――】

もう授業が始まってる時間だというのに、校内放送が流れる。

「こりゃ、謹慎だなぁ。うーん、退学もありえるかもね」

ポツリと呟いた自分の声をあたしは他人事のように聞いていた。