私の挨拶に、彼は一瞬驚いたようにも見えた。
その顔は寝起きといえど、流石イケメン。少し人相が悪い程度で済んでいる。


「……おはよう。早いな」

「そうですか? もう八時ですよ」

「こんなに早く起きたのは久しぶりだ」

「ええ……」


八時は大半の人が活動を始める時間帯だと思うけれど。
しかしよく見てみると、彼の目の下には隈ができていた。


「……昨日、ちゃんと眠れなかったんですか?」

「いや、寝た」

「でも隈が……」

「ああ……まあ、五時に寝たからな」

「五時!?」


驚きすぎて手元が狂った。慌てて視線をフライパンに戻し、立て直す。


「何でそんな時間まで起きてたんですか?」

「いつも大体それくらいだ」


生活リズムが狂ってらっしゃる……。昼夜逆転そのものだ。
とりあえずそれはおいておくとして、もしかすると私の物音で起こしてしまったのだろうか。だとしたら申し訳ない。


「すみません、騒がしくして。起こしちゃいましたね」

「いや、目が覚めた。……いい匂いがして」


すん、と空気を吸い込むようにして鼻を鳴らした彼が、興味深そうにこちらを注視していた。


「ああ、焼きおにぎりの匂いですかね。もうできるので、顔洗ってきて下さい」


起きてすぐはテンションが低いのか、彼は私の言葉に大人しく頷いて洗面所へ消える。
それを見届けて、私は食卓の準備を再開した。