心配性だね、なんてお母さんには笑い飛ばしたけれど。そんな不安そうな顔しないで、って手を振ったけれど。
心配も不安も、本当は私の方がずっとずっと大きかった。

新しく出会う人と上手く馴染めなかったらどうしよう。アメリカの方が楽しいからって、お母さんがそのまま帰ってこなかったらどうしよう。
いくつもどうしようどうしようって、そればっかりで。ちっともワクワクなんてしない。

行かないで、なんて。言えるわけなかった。
お母さんがどれだけ頑張ってきたのか。一番知っているはずなのに、心の底から「いってらっしゃい」って言えなかった自分が嫌い。

必死に唇を噛んで地面を見つめていると、突然頭の上に重みを感じた。


「じゃあ今日はこっちで寝るか」


ぽんぽん、と数回叩かれた頭。
存外穏やかな声色に顔を上げると、彼と目が合う。


「ふはっ、お前……泣き顔ぶっさいくだなあ」


何なんだ、この人。人の顔見て笑うって、どういう神経なんだ。


「ほら行くぞって。部屋何号室だよ」

「……何かあったらすぐ通報しますから」

「ガキに興味ないから安心しろ」


さっきからガキガキ言うけど、自分だって大して変わらないじゃない。
むっとして眉根を寄せた私に、彼は立ち止まって振り返る。


「早くしろ、華」

「え――」


どうして、名前。
そう問うより先に首根っこを掴まれ、私は半ば引き摺られる形でアパートへ向かうこととなった。